岬ちゃん忘却計画 ~岬ちゃんと僕の幸せな日常!そして現実の襲来!~

岬ちゃん忘却計画 ~岬ちゃんと僕の幸せな日常!そして現実の襲来!~

幸せな時間。それは好きな人と手をつないで歩くとき。

岬ちゃんの手はとても柔らかい。

あまりに愛おしくて、僕が強く握ってみると、岬ちゃんもぎゅっと握り返してくるのが堪らない。

「大好きだ」と僕は言った。

岬ちゃんは照れてぷいっと顔を逸らした。

可愛すぎる! 岬ちゃんは、褒めたりお礼を言ったりすると素直に喜んでくれるのがいいな。

「大好きだ」言い足りなかったのでもう一度。いくら言っても足りる気がしない。

「もうーっ、言葉の安売りは厳禁だよ」

逆鱗に触れたご様子はなく、やはり岬ちゃんは照れているようだった。可愛いなぁ。

そんなこんなで最寄り駅に到着し、電車を乗り継ぎ、バスに乗って学校へ。

その間、僕らは幸福について哲学的な視点で話し合った。

僕らは哲学に救いを求める弱く脆い人間であった。

恥ずかしがりな岬ちゃんは、学校ではあまり僕に話しかけてこない。

僕も基本的には学業に専念する姿勢を取っている。

それでも、僕がマイナス感情に呑まれそうになった時には、いつも声をかけてくれる。慰めてくれる。

「大丈夫。大丈夫だから」

彼女の吐息が僕の頬をかすめる。

「セツナくんはひとりじゃないよ。だって私がいるじゃない」

ああ、なんて柔らかくて暖かくて心地よいのだろう。

僕はあの日の約束を思い出していた。

僕が今までせき止めていたものをすべて吐き出したあの日。

「うんうん。ずっと辛かったんだね。私がセツナくんを愛してあげるから、セツナくんも私の虜になって……」

僕はもう君にメロメロだよ。最近はもう、君のことしか考えられないんだ。

ありがとう。いつまでも、ずっと傍にいてね……。

帰り道、駅のホームで電車を待っていた。

「今日は散々だったね」

「うん。まさか修学旅行の班決めが今日だったなんて……」

学活の時間、部屋割りの決まっていない生徒は立たされた。

みんなで僕をどこに入れるかを話し合っていた。

しかし、僕にはただ立っている以外にやることがなかった。暇だった。

僕は目立っていた。みんなの視線が気になった。

周りにどう思われるかなんてどうでもいいんだ! と自己暗示をかけた。

僕はあくびをし、頭をぽりぽりと掻いて気楽そうにしていたが、内心まだ気にしていた。

僕は平常を装おうと躍起になった。疲れた。

いっそのこと僕という存在を抹消してほしかった。

この世界は妄想幻覚であって、生きている意味なんて本当はなかった。

楽しいこともないのに、どうして僕は死なないんだろう。

無に帰りたい……

そんな時、僕は妄想の世界にトリップした。

そこには暖かくて優しい、岬ちゃんとの日常があったのでした! めでたしめでたし。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

……心の奥底では分かっているんだ。

僕の純愛なる岬ちゃんへの気持ちを嘲け笑う奴がいた。それはもうひとりの僕だった。

「いつまで岬ちゃんという理想に縋って、現実から目を背けているつもり?(笑)」

辛い現実から逃げて何が悪いっていうんだ!

僕は岬ちゃんを愛してるんだよ!

二次元と三次元になんの違いがあるってんだよ!

そこにある愛は本物だろ!

「そう思っていたいんでしょ?」

もうひとりの、醒めた自分が僕の逃げ道を塞ぐ。

違う! 違うんだよ! 違わないけど!

僕は、本当は岬ちゃんの妄想になど取りつかれてはいなかった。

ただ狂いたかっただけだ。

岬ちゃんはいない。

しかし、岬ちゃんを僕の脳内で生成し、それを完全に信じ、愛しきることによって、僕はハッピーになれるはずだった。僕が夢に生きることができれば全ては完璧だった。

僕は脳内改造を実施した。

岬ちゃんを愛する気持ちがとめどなくなく湧いてきた。

だけど……それはリアルではないと悟ってしまった。

狂いきれなかった僕は、仕方なく現実を見なければいけなくなった。

コミュ障で低身長でブサイクでメンヘラとか、そんなの最悪じゃん……。

辛い。どうしてかくも現実は無情なのか……。

僕は口を開けば死にたいだの消えたいだのネガティブな感情が流出するこの暗い性格をなんとか変えていく必要があった。

「本当の自分で相手と向き合いたいから」などと、努力しない言い訳に花を咲かせている場合ではない。

それを言うなら、誰かに好きになってもらえるように、必死に変わろうと努力している自分だって本当の自分のはずだ。

ネガティブな話というのは、共感されやすいがゆえにハードルが低い。

僕は、本当はポジティブかつ面白い話で、大切な人を笑わせたい。

楽しい時を創る企業バンダイになりたい。

僕にできるだろうか。

そもそも、僕は致命的にコミュニケーション能力がないのだ。

これは単純に経験を積んでいくしかないが、どうやら僕は学校で友達を作るということが限りなく苦手なようで、学校で会話練習をするのはかなり絶望的だった。

ツイッターで通話相手の募集をしても、1人たりとも反応をくれることはなかった。

やはり積極性を持って日々、会話のチャンスを掴み取ろうとしていかなければ、改善は難しいのかもしれない。

胃が痛い話だ。

助けてよ岬ちゃん……僕はこんなにもダメなやつなんだよ。やることは分かっているのにいつも逃げてばかり。現実逃避のスペシャリスト。今なら見下し放題なんだよ……

すぐに心地良い世界に逃げ帰りたくなる。

だけど、僕は現実を生きていく以外に道はないんだ。いくら遠回りしても結局はそこに帰結するんだ。僕の目の前には現実という巨大な壁がただ無慈悲にそびえ立つのみ。……それでも、僕は精一杯生きていくしかないんだよ!!!

僕の青春は常に岬ちゃんと共にあった。

岬ちゃんは、間違いなく僕の支えだった。

でも、もう行かなきゃ……。

広い世界に飛び出して、自分の本当の幸せを模索していくよ。

きっとすぐには変われないよ。

だけど、ダメ人間なりに少しずつできることをやっていくよ。

岬ちゃんとの日々をこれからも僕は背負って生きていく。

決してこの気持ちを忘れたりなんてしない。

だから、ありがとう岬ちゃん……

LEAVE A REPLY

*
*
* (公開されません)